クワイエットリーを創業した 2021 年、最初の正社員エンジニアの採用で、私は大きな失敗をしました。
候補者は 30 代前半、経歴は申し分なく、技術試験では満点に近い高得点を取りました。技術面接でも、最新のフレームワークやアーキテクチャについて、流暢に語ってくれました。私は迷わずオファーを出し、彼は入社しました。
そして、3 ヶ月で辞めました。
辞めた理由を、辞職面談で聞いたとき、彼はこう答えました。
「クワイエットリーの仕事は、私には地味すぎました。もっと最新の技術で、派手な仕事がしたいんです」。
責めるつもりはありません。彼はとても誠実な人で、自分のキャリアに正直なだけでした。問題は、私の側にありました。
私は、彼の「技術力」を測ったけれど、彼の「価値観」を測っていなかったのです。
技術試験が見えるもの、見えないもの
採用において「技術試験」は、便利なツールです。点数が出ます。比較ができます。フェアに見えます。
けれど、技術試験で測れるのは、せいぜい次のようなことです。
- このアルゴリズム問題を、何分で解けるか
- このコーディング課題を、どの言語で書けるか
- 与えられた仕様を、どれくらい忠実に実装できるか
これらは大事な能力です。けれど、受託開発の現場で本当に問われる能力は、別のところにあります。
- 顧客のあいまいな要望を、どう翻訳するか
- 自分が理解できない領域に出会ったとき、どう対処するか
- 5 年後の保守者のために、どこで妥協するか
- 同僚と意見が割れたとき、どう議論を進めるか
- 自分の判断ミスに気づいたとき、どう修正するか
これらは、すべて「技術試験では測れない能力」です。
そして、これらの能力こそが、5 年・10 年と顧客と関係を作る受託開発の現場では、技術力よりも重要なのです。
「対話」を採用基準にする、という決定
最初の失敗から 6 ヶ月後、私は社内の採用フローを大きく変えました。
具体的には、技術試験を一切やめました。
代わりに、3 つの面接形式を導入しました。
1. 過去のコードを一緒に読む
候補者に、ご自身が過去に書いたコードを 1 つ持ってきてもらいます。GitHub の公開リポジトリでも、許可を得て持参いただいた過去案件のコードでも、何でも構いません。
そのコードを、私たちは候補者と一緒に読みます。そして、こう質問します。
「この関数、なぜこういう設計にしたんですか?」
「ここで if 文を使った理由は?」
「もしここを書き直すとしたら、どう変えますか?」
技術力は、書いたコードよりも、書いたコードを語る言葉から透けて見えます。設計の意図を 30 秒で説明できる人は、自分のコードに責任を持っている人です。
2. 解決の過程を語ってもらう
過去に経験した、難しいバグや課題について、解決までの過程を語ってもらいます。
「最初は、原因をどこに想定していたんですか?」
「最初の仮説が外れたとき、次は何を試したんですか?」
「結局、何が原因だったんですか?それは予想と違いましたか?」
「同じ問題に次に出会ったら、最初に何を疑いますか?」
私たちが見ているのは、答えの正解ではありません。思考のプロセス、特に「自分が間違ったときの修正の仕方」です。
優秀なエンジニアの共通点は、「迷わず正解にたどり着く」ことではなく、「間違いに早く気づき、軌道修正できる」ことだと、私は経験上感じています。
3. 失敗談を共有する
これが、私たちの採用面接で最もユニークな部分かもしれません。
候補者に、過去の失敗談を聞きます。
「うまくいかなかった案件で、自分の判断のどこが甘かったと思いますか?」
「チーム内で対立があったとき、自分の何が原因だったと思いますか?」
「振り返って後悔している意思決定はありますか?」
そして、こちらも対等に、私たちの失敗談を共有します。創業初期のミスマッチ採用、見積もりの読み違いで赤字案件になった話、納品後にバグで顧客に迷惑をかけた話。
自分の失敗を、その場で初対面の人に語れる人は、信頼に値する人だと、私は思います。
逆に、「失敗らしい失敗はないですね」と即答する人は、振り返りの習慣が薄い人か、あるいは自分を客観視する力が弱い人です。長期的な伴走関係を作りにくい傾向があります。
結果: 何が変わったか
この 3 つの面接形式に変えてから、3 年が経ちました。
その間に、私たちは 11 名のエンジニアを採用しました。退職者は 1 名のみで、その方も結婚に伴う引越しが理由で、ミスマッチではありません。
数字としては、業界平均を大きく上回る定着率です。
けれど、本当の変化は、定着率ではありません。
入社後の「噛み合わせ」が圧倒的に良くなったことです。
技術選定の議論で、価値観の食い違いが発生することが減りました。お客様への報告書のトーンで揉めることがなくなりました。納期前の「妥協ライン」の議論で、共通の感覚が前提になりました。
これは、技術力が高い人を集めた結果ではありません。
価値観が重なる人を集めた結果です。
採用は「物語の交換」である
私が今、採用面接で意識しているのは、こういうことです。
採用面接は、企業が候補者を「点数」で評価する場ではありません。
候補者と企業が、お互いの「物語」を交換する場です。
候補者は、自分がこれまでに書いてきたコード、解決してきた課題、向き合ってきた失敗を語ります。
企業は、自分たちがこれから 5 年、10 年で目指す方向、現状の課題、未解決の悩みを語ります。
その交換の中で、お互いに「ああ、この人とは長く話せそうだ」と感じる瞬間があります。あるいは、「悪い人ではないけど、噛み合わなさそうだ」と感じる瞬間があります。
その感覚を、両者が率直に共有することが、ミスマッチを防ぐ最大の方法です。
私たちの採用フローでは、最後に必ず「メンバーとのランチ or オンライン懇親」を入れています。これは、候補者からチームへの「面接」の場です。私たちが選ぶだけでなく、選ばれることも、採用の片側を成しています。
結び ── 採用は、能力評価ではなく、関係構築である
クワイエットリーは、まだ 12 名の小さな会社です。
これから 50 名・100 名の規模になったときに、今の採用フローが維持できるかは、正直分かりません。スケールするためには、ある程度の構造化された評価軸が必要になるかもしれません。
けれど、たとえ規模が大きくなっても、「採用は能力評価ではなく、関係構築である」という原則は手放さないつもりです。
技術力で人を選び、価値観で人を引き止める ── そういう採用は、長期的には機能しません。
最初から、価値観で人を選ぶ。技術力は、その後で見る。
順番を間違えなければ、採用はずっとシンプルになります。
著者プロフィール
橋本 周(はしもと しゅう)
株式会社QUIETLY 代表取締役。創業 5 年目に入り、組織と採用について考える時間が増えてきました。

コメントを残す